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(デザイン+生産+流通)×プロデュース=ブランディングデザイン ムラタチアキ式・バラ色のブランド方程式

デザインは喜びをプロデュースするサービス業。 ムラタチアキ

プロダクトデザイナーがプロデュースする新しい流通スタイルのブランド「METAPHYS」

まるで本物のキャンドルのようにマッチ棒でこすると明かりが灯り、息を吹きかけると消える電子キャンドル。部屋に置くとおしゃれなインテリアになる渦巻き型のコードレス掃除機。ポットのお湯が沸騰しているかのように見える加湿器。どこか “クスッ”と笑みがこぼれるユーモラスな機能と“ハッ”と目をひくシンプルなデザインで、ひときわ存在感を放つこれらのプロダクトは、すべてムラタチアキさんがデザイン&プロデュースする「METAPHYS」ブランドの製品だ。しかもこの「METAPHYS」、ひとつのメーカーによるブランドではない。ひとりのプロダクトデザイナーによるプロデュースのもとに、いくつもの協賛企業によって生産・発売された新しい流通スタイルのブランドなのだ。

デザイナーの仕事はサービス業。相手に喜んでもらって、はじめて仕事だ。

「METAPHYS」の語源は“METAPHYSICS”という哲学用語。すべての存在の基本原理を追求する学問を意味する言葉だ。「デザインの仕事って、ある意味サービス業でしょ(笑)。相手に喜んでもらって初めて仕事です。僕にとってバラ色のイメージは、一生懸命デザインしたモノが商品化されて流通し、ユーザーが喜んで買ってくれて、売れることでメーカーも喜ぶ。でも実際20年間デザインしてきて、なかなかそうはならなかった。それどころか、せっかくいいデザインをしても商品化されない経験すら何度もあった。そんな葛藤にずっと悩まされ、ある時、これまでの流通の仕組みそのものに問題があることに気がついたんです」。どんないいデザインも、それを流通させる仕組みをプロデュースする力がなければユーザーまで届かない。メーカーや流通にその力がないのなら、デザイナーがやるべきだと考えた。こうして生まれたのが、デザインだけでなく製造、流通まで、すべてデザイナー主導でプロデュースするブランド「METAPHYS」だ。まずいくつかのプロダクトを作り、マーケットのセレクトから始め、次にブランドの新製品の協賛企業を募ってフォーラムやオリエンテーションを開催した。すると全国のメーカー・流通からオファーがきて、これまでと立場が逆転していった。今や「METAPHYS」は東京に直営ショップも出店する勢いだ。

日常の不便さや思い込みを観察し、ソリューションを探しだす“行為のデザイン”。

大阪在住のデザイナーでありながら、東京や世界的デザインシーンでの知名度や評価の高いムラタチアキさんとそのブランド「METAPHYS」。そのデザイン手法とは一体どんなものだろう。「METAPHYSのデザイン手法は“行為のデザイン”といって一般のデザインとは明らかに違います。一般のデザイン観は形や色などのビジュアルが優先ですが、僕のデザインは一言でいうとソリューションビジネス、もっと平たく言うと“問題定義”のデザインです。問題点、つまりバグを見つけることがいちばん重要で、そのためには観察が必要です。観察をしてバグが見つかったら、その段階でデザインの8割は終わっています。あとの2割が色や形のビジュアルです」。
たとえばハンガーを例にとってみる。スーツを脱ぐ時、上着から脱ぐかズボンから脱ぐか。8割以上の人が「上着から脱ぐ」と答える。残りの「ズボンから脱ぐ」と答えた人に理由をたずねると「ハンガーに掛けるのにズボンからしか掛けられないから」。つまり、ほとんどの人がハンガーに上着から先に掛けられないことを不便に感じている。それにも関わらず、その不便さが見過ごされている。それがバグだ。この場合、上着から先に掛け、ズボンを後から掛けられるハンガーをデザインすることがMETAPHYS流“行為のデザイン”だ。「日常のささいなことに“ハッ”と気づき、それを消費者の方にクスッ”と共感してもらう。そんな共感をひとつひとつ創っていきたいですね」。

環境にやさしいデザインで風情ある日本文化を発信。「フローティング・ランタン・プロジェクト」。

ムラタさんはNPO法人エコデザインネットワークの理事を務めるなど、地球環境にやさしいエコデザインも推進している。「僕たちは地球の限りある資源を使ってモノを創り、それが消費されていくわけです。そこにはクリエイターとしての倫理観やモノを提供するメーカーとしての責任感が問われます」。そんなムラタさんが今、環境問題をテーマにぜひ大阪から発信していきたいと考えているのが「フローティング・ランタン・プロジェクト」だ。日本には古くからある精霊流しのような行事が、最近では川に流す灯籠の回収が難しく環境に悪影響を及ぼすという理由で中止になるケースが多い。そんな中で日本ならではの風情ある水辺文化を残しながら、地球環境を改善していける提案はないだろうかと考えた。そこで水に完全に溶けて水質に負荷をかけないランタンをデザインし、水辺を美しく彩ることで人々の環境への意識も高め、企業などの広告などにも活用できるシステムを考案した。「ぜひ来年の水都大阪2009などに提案して、大阪から日本文化を世界に発信していきたいですね」。そうプレゼンテーションに対する熱い意気込みを語ってくれた。
2008年2月25日
よしみかな

ムラタチアキ プロフィール

1日1個のデザインをめざしているというムラタさん。 現在、企業との協力によって大阪のクリエイターたちに発表の場を提供する「デザイン村構想」も動き始めた。

ムラタチアキ
株式会社ハーズ実験デザイン研究所・METAPHYS代表取締役社長兼デザイナー。1959年生まれ。三洋電機株式会社デザインセンターを経て、1986年にハーズ実験デザイン研究所を設立。
プロダクトデザインを中心にグラフィックデザインやインターフェイスデザインなど幅広く活動。2001年度、3方向衝撃加速度計でグッドデザイン賞金賞受賞、2005年度、無人航空機カイトプレーンレスキュー、メタフィスFALCEで中小企業長官特別賞受賞。2005年、Microsoft社のXbox360のコンソールデザインも手がけるなどグローバルに活躍。2007年honoが新日本様式受賞。多摩美術大学の非常勤講師・日本デザインコンサルタント協会理事・日本インダストリアルデザイナー協会会員・NPO法人エコデザインネットワーク理事・日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞審査委員。


筆者プロフィール
よしみかな
コピーライター&インタビュア。有限会社かなりや主宰。2008年よりイエローキャブWESTとのタイアップで関西の文化人のキャスティング&プロデュースをするプロジェクト「文花人」をスタート。
「文花人」 http://www.bunkajin.jp