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KANSAI SCENE(KS)

KANSAI  SCENEバックナンバー

KANSAI SCENEバックナンバー

 外国を旅行した時に、ツーリストたちがインフォメーションデスクで真っ先に探すのが、地元で発行されている無料の旅行者向け情報誌だろう。そこには大手のガイドブックでは掲載されていない、その土地に住む人間だからこそ知りうる情報──近日行われるイベント、小さいけれど気の利いたレストラン(時には割引クーポン券もついている)、現地の人との交流が楽しめるバーなどの、有益な情報が掲載されていることが多いからだ。そして関西エリアでこの役割を果たしている最も著名なフリーペーパーが「KANSAI Scene(以下KS)」だろう。
 KSは2000年6月に創刊。毎月1日発行で、現在の発行部数は25,000部だ。主に誌面に掲載する、飲食店や日本語学校などの広告収入によって運営されている。配布先は、空港や観光案内所を始め、洋書が充実している書店にバッグパッカーが多いホテルなど、外国人が多く出入りする施設や店舗が中心。64ページ・B5版サイズと、ポイッとカバンに入れて気軽に持ち帰りやすい大きさなのも、人気の理由の1つだろう。

毎年1月には、読者の投稿写真によるカレンダーを発行

毎年1月には、読者投稿写真によるカレンダーを発行

 KSの大きな特徴は、彼らが「Big variety」という言葉で表現する通り、様々な理由で関西に滞在している外国人たちに対して、できるだけ幅広い情報を提供している点だ。たとえば関西に1週間程度滞在する予定の旅行者と、日本で職を得て日常生活を送っているビジネスマンとでは、それぞれ求める情報は大きく異なってくる。しかしそのニーズを完全に分断するのではなく、どちらの層にも役に立つゼネラルな情報をピックアップするようにしているという。
 その言葉通りKSの誌面は、その月に行われる映画、音楽、フェスティバル、クラブイベントなど、誰もが取っつきやすいエンターテインメント系の情報が大半を占める。世界的な注目を集める映画やライブなどのメジャーな話題はもちろん、時には日本人の間ですらほとんど知られていないような、マイナーな祭りまでをもフォロー。まさに国籍や境遇に関係なく、どんな人間でも多かれ少なかれ興味を持てて、なおかつ関西で過ごす時間を楽しいものにできる情報がそろっている。またこれらのイベント情報だけでなく、毎月の巻頭特集では、日本の文化や社会問題に迫る記事を掲載。表面的な楽しみだけではなく、日本を深く理解したいと願っている層も満足できる内容になっている。また旅行情報を載せる際にも「今ならここに行けばこんな花が咲いている」など、時節のピンポイントを突いた情報を提供できるのも月刊誌の強みだ。

セールスマネージャー、ジョーイ・パーカー氏

セールスマネージャー、ジョーイ・パーカー氏

 創刊以来小さなオフィスで、インディペンデントに近い状態で発刊を続けていたKSだが、昨年末に東京の「メトロポリス社」と業務提携を結ぶことになった。首都圏で配布されているフリーペーパー「メトロポリス」や、ビジネス誌「J@pan-Inc」などを発刊している、日本では最大手の英文専門の出版社だ。これにより関西エリアだけにとどまらない、よりいっそう「ゼネラルな外国人向けの日本の情報」を提供することが可能になると見られている。
 今年からセールスマネージャーに就任したジョーイ・パーカー氏は「このタイアップをきっかけに、東京や関西以外の地域……東海地方などにも、外国人コミュニティのネットワークが広がっていけば」と語る。またKK社が首都圏で始めている、外国人向けの携帯電話サービス「M CALL」のように、日本在住の外国人たちのニーズに合わせた事業を、出版関係に限らず展開していきたいとのことだ。ちなみにパーカー氏は来日5年目で、貿易業を経て現在の職についた。参考までに、現在日本で暮らしていて不便だと思っていることを聞いてみると「日本で医者にかかるのに、ハードルが高いことですね。僕は今まで一度しか病院に行ったことはないですが、英語ができるお医者さんの情報は、外国人にとってとても大事だと思います」との答えが。現在のKSに医療関係の情報は特には掲載されてないが、近い将来彼の意見に応えて反映されることになるかもしれない。

編集部の風景

KANSAI SCENE編集部。OCATのすぐ近くの印刷会社ビルの3Fにある。

 さて、KSが完全に日本に滞在する外国人だけが楽しむための雑誌なのかと思いきや、よく読み込んでみるとそうでもない。KSには個人広告の欄があって、その1つ1つを読むと、日本で暮らす外国人たちのライフスタイルが自ずと浮かんでくる。帰国に伴い家具・家電類の一掃セールを呼びかける人、国際交流パーティやカードゲーム大会の告知、パーソナルなヘアカットの宣伝、日本語で話ができる友人の募集など…。実際、日本に住む外国人の考えを知りたがったり、あるいは交流を求めている関西人も、KSの重要な読者層の1つなのだ。また毎月コンテンツ欄に掲載される“日本”を感じさせる写真は、日本人・外国人を問わず広く一般から募集しているという。
 「外国人と関西との橋渡し」という一点だけをしっかりと軸に据え、グローバルな視点で多様な関西の姿──あるいはこの地に住む外国人の姿を紹介してきたKS。さらにメトロポリス社との提携によって、’09年以降その活動と視野は、関西に収まりきらないほどの広がりを見せることだろう。

筆者プロフィール
吉永 美和子(Miwako Yoshinaga)
演劇情報誌JAMCi(じゃむち)、エルマガジン編集部を経て、フリーのエディター&ライターに。関西の演劇カルチャーからグルメネタまで、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。現在「Meets Regional」「SAVVY」の演劇 ページを担当する他、演劇専門誌でも関西演 劇を紹介するページを連載中。
個人サイト「姐日記」 http://www.geocities.jp/yoshinaga_ane/